在宅医療部

Sue Banerjee先生が来日しました

先週、イギリスの認知症国家戦略の第一人者であるSube Banerjee先生が来日した際に、当院の取り組む「認知症初期集中支援」の経過について、院長である遠矢純一郎先生が報告をおこないました。Banerjee先生は英国のメモリーサービスという今回の認知症初期集中支援サービスのモデルをつくり、米国やオーストラリアなどの認知症国家施策にも関与する国際的に影響力のある方です。

今回のディスカッションはオレンジプランと呼ばれる日本の認知症の新しい国家施策も含めて、日本の現状報告と先生からの評価を頂くことが目的でした。私たちも全くゼロの状態から手探りで始めた初期集中支援であるため、現在の関わり方やアセスメント、プランの妥当性などについて、先行する英国の取り組みとの比較なども是非お聞きしたいところでした。人員体制や支援の仕組みなど一連の流れを説明し、代表的なケースを挙げて具体的に支援の状況をおはなししました。

Banerjee先生は最後までじっくり聴いてくださったあと、まずは一言「Excellent!(すばらしい)」と評価してくださいました。そして以下のようにコメントして下さいました。

—from Dr. Banerjee—
なにより、こうしてサービスが開始されたことが彼女(今回の支援対象者)に
とってはとても良いことだし、それによって彼女の行動も変化している。
ここに至るまでの放置された5年間はとてもひどいものだっただろう。
こういうストーリーがとても大事。今後の取り組みや広げようとするときに
関わる人たちに良い影響を及ぼすだろう。

認知症の方への支援においては、どうやって本人を関わらせるか、という
ことはとても難しいこと。このケースでも、最初は拒否されていたけど、
何度も何度もあきらめずに、その方へのアプローチを続けたことで
結果的にフルアセスメントや夜間のヘルパーの導入に至っている。
私はそれで良いのだと思う。最初から全部は無理なので、
少しずつ少しずつ、関係性を構築していくことが、良い成果へとつながるだろう。

このケースの3つのポイントを挙げたいと思う。
その1)時間はかかったが、きちんと診断につながったこと。
これはとても重要なこと。
その2)家族に対して、今後の症状や予後についてちゃんと
説明していること。これによって後見人などその後の方向性が
導かれた。こういうadvanced care planをしっかりおさえる
ことが大事。とにかく当事者にそのための情報を与えること。
その3)どうやって初期の対象者をみつけるか。これはGPという
役割の居ない日本においては、正直どうしたらいいのかわからない。
救急外来などでそういう方が来院したらフラグを立てるとか?
あと大事なことは、市民啓発の結果、家族がそういう認識を持ち、
気づいてあげることが重要。

早期発見はもちろん大事だが、その後をどうするか。初期だけ関わる
というチームは、それはそれで必要だし、それで良いと私は考えるが、
その後をフォローしたり、急性期などに対応出来る仕組みも必要。
しかしそれはまだ先のこととして、まずはこの初期支援を充実させて
いくと言う方策はアリだと思う。
これから初期集中支援チームは、どういうペースで広げていくの?

>今年14、来年20、再来年には全国4000カ所の地域包括支援センターに配備する予定。by 粟田先生

4000だって?! それは20カ所からいきなり開きがありすぎる。
イギリスには70(聞き間違いかも?)の初期集中支援チームがある。
こういう専門チームは、数人程度の小規模が良い。そうでなければ
他の地域で同じものを作れなくなるから。小さいチームでやって、
それを2番目に伝え、3番目に伝え、、、していくうちに、広げ方がわかる。
人材育成?精神保健専門看護師(精神科外来などに居る?)など、
すでに精神科疾患への下地があるような職種やスペシャリスト、つまり
「もう少し学べば、認知症対応も出来る」くらいの職能の方を使えば良いだろう。

国際的にも注目されている英国の認知症ケアに照らし合わせて、私たちの取り組みをきちんと評価して下さったことを嬉しく思いました。一方で、日本はいまだに精神科病棟が35万床もあり、認知症の方が入院となるケースが増えていることや、認知症の診断の多くが専門医によるMRIなどの高度検査をルーチンとしている現状に対して、「それはとてもコストのかかるやり方だ。限りある財源のなかで、どこにそれを振り分けるかを考えるべきだ。」とも訴えておられました。

今後も認知症政策に関する話題を取り上げていきたいと思います。

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