取材・執筆

NHK「視点・論点」に上野秀樹医師が出演しました

去る11月6日(火)に当院の上野秀樹医師が、NHK「視点・論点」に出演しました。
今年の6月18日(月)に厚生労働省から「今後の認知症施策の方向性について」という今後の方針が示され、その中で認知症の方が精神病院等に入院することなく、住み慣れた地域で暮らしていけるように「初期集中支援チーム」「身近型認知症疾患医療センター」という2つの取り組みが記載されました。上野医師は「視点・論点」において、認知症の方の自宅に往診して地域でみるという先駆的な取り組みを行なってきた一人として、今回の厚生労働省の方針とご自身の思いをお話しております。

以下が、NHK「視点・論点」でお話しした内容ですので、是非ご覧ください。

——————— 11/6 NHK「視点・論点」より ———————

人口の高齢化が進む日本では、増え続ける認知症が大きな問題となっています。きょうは、認知症の人に対する訪問診療を行っている医師の立場から認知症の問題を考えてみようと思います。

今年6月18日に厚生労働省から発表された国の認知症施策の基本方針、「今後の認知症施策の方向性について」では、まずこれまでの我が国の認知症施策に関して再検証しています。

この中で、「かつて、私たちは認知症を何も分からなくなる病気と考え、徘徊や大声を出すなどの症状だけに目を向け、認知症の人の訴えを理解しようとするどころか、多くの場合、認知症の人を疎んじたり、拘束するなど、不当な扱いをしてきた。」として、「今後の認知症施策を進めるに当たっては、常に、これまで認知症の人々が置かれてきた歴史を振り返り、認知症を正しく理解し、よりよいケアと医療が提供できるように努めなければならない。」と、従来の施策の反省の上に立ち、「認知症の人は、精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指すという目標を設定しました。

この「できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現をめざすために、初期集中支援チームと身近型認知症疾患医療センターという2 つの大きな施策が提案されています。
この施策の内容をお話しする前に、認知症の基本的な知識についてお話しましょう。

認知症は、「一旦正常に発達した知的能力が低下し、もの忘れや判断力の低下があるために日常生活や社会生活に支障を来すようになった状態」のことを言います。認知症になると2種類の症状が生じてきます。一つ目がもの忘れや判断力の低下などの認知機能障害と呼ばれる症状で、2つめが、不安、うつ状態、幻覚や妄想、興奮や暴力、徘徊や不潔行為などの行動・心理症状と呼ばれる症状です。

認知症の人は、日常生活や社会生活に支障を来しているのでその生活を支える必要があります。その生活を支える中で認知症のこの2種類の症状に対応した問題が生じてきます。一つ目のもの忘れや判断力の低下に基づく問題、例えば適切な買い物ができない、料理ができない、大切なものの管理ができないなどの問題に関しては介護保険のサービスを有効に利用することで理論的には対応が可能です。現場で困ってしまうのが、二つ目の行動・心理症状に対する対応です。それでは、なぜ、認知症の人に行動心理症状が出てくるのでしょうか。認知症の人は、もの忘れや判断力の低下のために、いままでできていたことができなくなったりします。また、人の話を聞いても、テレビを見ても内容が理解できなくなり、思い出すこともできず、考えてもわかりません。周囲の社会
が理解できないものに変わってしまい、不安が募ります。また、認知症の人は言葉で現するのが苦手です。例えば、便秘でおなかが張って苦しいとき、普通の人はそう言えば、適切な援助が得られるでしょう。しかし、認知症の人は言葉でうまく表現することができないのです。しかし、苦しいから大声を出したり、暴力をふるってしまうかも知れません。このように行動・心理症状は、認知症の人の言葉にならないメッセージの可能性があるのです。

今回の厚生労働省から提案された施策の一つ目の初期集中支援チームは、認知症の人に初期から関わることでその生活を支え、行動・心理症状を未然に防ぐものです。その最も大きな意義は、認知症の人が自分の思いを表現できるうちに、その言葉を聞き取り、認知症を持ちながらもどんな生活を送りたいかを記録し、その生活を支援することです。私たちにはそれぞれ、人生において譲れない価値があります。この人生の価値を他人から踏みにじられたときに多くの行動心理症状は生じてきます。本人自身からその人生を聞き取り、記録してその後のケアに役立てることがとても大切なのです。

★現在、認知症の人の精神科病院への入院が問題になっています。精神科病棟では、本人の意思を尊重したケアを行うことは難しく、認知症の人の言葉にならないメッセージの可能性がある行動心理症状の治療の場としてはふさわしくありません。この問題の根本は、認知症の人が精神科に入院せざるを得なくなるまで,適切な援助が得られないということです。初期集中支援チームは、認知症の初期の段階から支援を行うことでこの問題を解決します。実際に福井県の敦賀温泉病院の玉井先生は数年前から「お出かけ専門隊」という初期支援チームを活動させ、認知症の人の精神科病院への入院を大幅に減らすことに成功しています。★

厚生労働省から提案された施策の2つめが「身近型の認知症疾患医療センター」です。これは、必要な場合には、出向いていって認知症の人のもとに、必要な医療を届けるサービスです。内科や外科の疾患においては医療の必要性が高まるとき、例えば内科の病気で昏睡状態にあるとか、大けがをしているような場合には、その人を病院に搬送することができれば、医療にアクセスすることは容易です。しかし、精神疾患のある人が医療の必要性が高まったときには、自分が精神的に異常があって、治療の必要性があるという意識、いわゆる病識が失われてしまいます。精神疾患のある人の場合には、医療の必要性が高まれば高まるほど通常の外来受診が困難になってしまうのです。これは、行動・心理症状のある認知症の人でも同じです。認知症の人の妄想や攻撃は身近で世話をしてくれている人に向かうことが多く、家族は深く傷ついてしまうのです。行動・心理症状が激しく、通常の受診が困難な場合に訪問診療で対応するのが身近型の認知症疾患医療センターです。当院では3 年前から行動心理症状のために来院することが困難な認知症の人のもとに精神科医師が出向いて診療するサービスを行い、大きな成果を上げています。

最後に、私の思いをお話しします。
私が認知症の人の診療に従事していて思うのは、認知症は誰がかかってもおかしくないということです。現在の認知症の人の問題は、将来の私たち自身の問題でもあるのす。残念ながら、認知症の予防は不可能です。私たちは考え方を変える必要があります。認知症になってもそれまでと同じように意義のある、生き甲斐がある人生を送ることができる社会を作っていくこと、適切なときに適切な支援が得られる社会を作っていくこと、私たち日本国民ひとりひとりが認知症を自分の問題として考え、工夫していけば不可能ではないと考えています。
高齢の認知症では、高齢化に伴う身体機能低下による身体障害、認知機能障害という知的障害、行動心理症状という精神障害という従来の三障害すべてが出現する可能性があります。誰がかかってもおかしくない認知症の問題に直面することで、これまで障害者問題を「特別な人の問題」としてきた私たちが、障害者問題を自分の問題としてとらえることができるようになるでしょう。認知症の問題が、人々の多様性を受け入れ、あらゆる人を包摂して一諸に暮らすことができる新しい日本の社会を作っていく契機になるのではないでしょうか。

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NHK「視点・論点」(上野先生医師出演)
11月6日(火)
総合テレビ 午前4時20分~4時30分
Eテレ 午後1時50分~2時

講師 上野 秀樹 医師
医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック在宅医療部非常勤医師
社会福祉法人ロザリオの聖母会 海上寮療養所
東京大学医学部を卒業。平成16年 東京都立松沢病院の認知症精神科専門病棟を担当。
現在は千葉県旭市にある精神科病院『海上寮療養所』で認知症高齢者の訪問診療を行いつつも、世田谷区を中心とした地域で認知症の方の外来・訪問診療を行っている。

詳しくはファミリードクター紹介のページをご覧ください。


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