
さいごまで、自宅で。その想いを支える「かんたき」というしくみ、ご存じですか?
「ご本人も、ご家族も、暮らしや介護を少しでも楽に、自分のペースを守って生きられるように」。そんな想いを持ちながら、「さいごまで自宅で」を支える介護士たちの、現場からの声をお届けします。
(※この座談会は、2025年4月4日に開催されたものです)
話し手=荒武佑磨、西尾学、小林奈津美(ナースケア・リビング世田谷中町・介護士)
聞き手=尾山直子(広報/訪問看護師)

介護のまるっとサービス「かんたき」のしくみ
―― 今回お話を伺うのは、看護小規模多機能型居宅介護(以下、「かんたき」)というサービスを提供する、ナースケア・リビング世田谷中町(以下、NCL)の介護士の皆さんです。よろしくお願いします。
荒武・西尾・小林
よろしくおねがいします。
―― まずは、おひとりずつ自己紹介お願いします。
荒武
介護士歴は…13年ですね。NCLは立ち上げの2017年からなので、8年目かな?得意なケアは、利用者さんを笑わせること。笑顔が一番素敵なので、おもしろおかしくすることが好きかなあ。
西尾
荒武さんは、本当によく利用者さんを笑わせていますよね。
ぼくは介護士歴は6年目、NCLは2年目になりました。得意なケアは...、利用者さんを笑顔にしたいという心持ちではあって、その場ではそぐわない言葉は避けるようにしたりします。
小林
介護士歴は7年です。去年の4月にNCLに来たので、今年の4月で1年になりました。
西尾
1周年ですね!おめでとうございます。
小林
あっという間でした。今のところ、腰痛もなく楽しくできています!得意なケアは、利用者さんに寄り添った声かけを心がけていることでしょうか。

―― 早速ですが、「かんたき」ってどういうしくみの制度なのですか?
荒武
ご自宅に訪問して介護や看護をする「訪問介護・看護」、利用者さんが施設に通って過ごす「デイサービス(通い)」、利用者さんが施設に宿泊する「泊まり」のサービスを組み合わせた介護保険サービスです。専属のケアマネジャーもいて、多くのサービスがひとまとまりになっているんです。
訪問も、デイサービスも、泊まりも同じチームでサービスを提供できますし、ご家族のレスパイトもできて、とてもいいサービスだと思います。
―― いいですね。多くの場合はサービス内容によって事業所が違うので、それぞれの事業所と契約する大変さがありますが、かんたきの〈1ヶ所と契約すれば、まるっと対応してもらえる〉というのは魅力的です。「かんたき」って、誰でも利用できるのですか?
荒武
そうですね。要介護の認定を受けた人であれば、どなたでも使えます。
西尾
自分はここに来るまで「かんたき」というサービスを知らなくて、就職活動をしている中で採用担当者に教えてもらったことがきっかけでした。
「かんたき」は看護師が常駐しているので医療処置のある方でも利用できる、というメリットがあります。実際にNCLで働きはじめてみると、医療的ケアが必要な方が多く利用されていて、介護士も高いスキルを求められ、勉強もできる良い施設でした。看護師がいるので、介護士の視点でいつもと違うなと思ったときにすぐ対応してもらえることは、「かんたき」の強みだと思います。
介護業界でもこのサービスがあまり知られていなかったりするけど、最近はケアマネさんにも認知度が上がってきているのかなあ。

―― もっと「かんたき」の知名度があがるとよいですよね。利用する人にとってのかんたきのメリットをお伺いしてもいいですか?
西尾
例えば、体調不良などの理由で急に「デイサービスに行けません」ってなった時に、すぐに訪問のサービスに切り替えられるところがいいなと思います。
―― 通常のサービス体制だと担当のケアマネジャーが訪問サービス事業者に連絡をとって調整してくれるけれど、どうしてもタイムラグが生じてしまうことがありますもんね。パッと切り替えられて、情報共有も速やかなのは、かんたきが「ワンチーム」だからこそですね!
荒武
歩けなくなったり食べられなくなったとき、吸引や胃瘻が必要になったとき、「施設」を考える人もいると思うんです。かんたきは、「自宅で過ごしたい」という希望を支えられるサービスなんじゃないかなと思います。
―― なるほど。かんたきの制度設立目的を改めて確認すると、「医療依存度が高くても、住み慣れた場所で在宅療養を望む方の思いにこたえるため、2012年に創設された」とあります。家で暮らしつづけたいと願う方のために、「かんたき」はあるんですね。
※参考:公益社団法人 日本看護協会ホームページ
―― 他はいかがでしょうか。
西尾
お家での過ごし方を実際に見たりご家族などから聞いたりして、それを参考にデイサービスや泊まりのときの過ごし方を組み立てられることでしょうか。
―― 同じスタッフが、訪問介護もデイサービスや泊まりのケアも行いますもんね。自宅は「その人らしさ」が溢れている場所ですから、それを施設内での介護にも活かせるのは、シームレスでとてもいいですね!
小林
いろいろな事業所が入るわけではないので、ケア方法を統一しやすいのかなあと思います。
たくさんの事業所が関わっていると、どうしても「あちらの訪問スタッフはこうするけれど、こちらのデイサービススタッフはこうする」ということが起きたりする。でも、「かんたき」はひとつのチームだから、どのサービスを受けてもケアの違いがなくて、方針が統一されていることは、家族や利用者さんにとって混乱が少ないのかなあと思います。

ナースケア・リビングのチーム力
―― 「かんたき」について色々お伺いしましたが、次は、みなさんが働く「ナースケアリビング世田谷中町(以下、NCL)」について聞いてみたいと思います。
西尾
NCLは、職種の風通しがいいチームですね。介護士と看護師、ケアマネの3職種が常時いるのですが、連携がとりやすいです。
介護のスタッフが少ないときも、看護師さんが「何か手伝うことない?」と声をかけてくれて、それぞれの専門性がありつつも、職種の壁を超えて声を掛け合えることはNCLの魅力だと思っています。
―― 職種の専門性を大切にしながら、足りない部分を補い合えるチームなんですね!
西尾
過去に介護施設での勤務経験があるのですが、多職種で情報共有が取れていなくてチグハグしてしまった経験があるんです。でもここは本当に連携がよく取れていて「ワンチーム」を感じます。
―― 小林さんは、入職後1年が経ったんですよね。NCLはいかがですか?
小林
入職して感じたNCLのよいところは、「すごくケアが丁寧なところ」です。入浴介助の時も足の指の間まで全身状態をしっかり観察していて、異常を感じたら、介護と看護が連携を細かくとってケアにあたっているな、と感じました。
西尾
そうそう!自分も入職したときに一番びっくりしたのは、利用者さんの肌がきれいなことなんですよ。今まで、乾燥して粉を吹いているような利用者さんの肌ばかり見てきたので...。
小林
そうなんですよね。利用者さんによっては、保湿剤を1日数回塗っていたりします。こんなに肌がきれいになるなんて、なかなかできるケアじゃないと思います。
西尾
皮膚が粉を吹いていたのは、「お年寄りだから」ではなくて「ケアができていなかった」んだって気づいて。ここまで肌を美しく保てるんだ、ということを知っているか知らないかは大きいなと感じます。

―― 荒武さんは勤務歴が長いですよね。開設時からのNCLの歴史を知っているわけですが、今のチームはいかがですか?
荒武
今も昔も、アットホームで話がしやすい職場だなと思います。看護師さんって強くて少し話しづらいイメージもあったりするんですが………(笑いながら)。そういうイメージと違って話しやすい方ばかりなので。情報共有のしやすさが、きめ細かいケアに繋がっているんじゃないかなと思います。
介護士全員が医療的ケアができることも強みだと思います。経管栄養・吸引など、看護師の手がまわらない時にサポートもできるし自分たちにとっても勉強になる。ここでは、入職したら必ず、事業所が研修費を負担して喀痰吸引2号研修を受けることになっているんです。
西尾
看護師さんがいるので資格を取りやすい環境ですよね。そういうスキルを身につけることができるのは、就職先にNCLを選んだ決め手の一つでした。看護師さんが忙しい時にフォローできるのは強みだと思います。

―― NCLは、桜新町アーバンクリニックと連携していますが、それについてはいかがですか?
西尾
何かあった時には、夜間でも桜新町アーバンクリニックのフォローがあるので心強いです。看護師さんのオンコール体制もあるけれど、医師も出動できる体制なのはとても手厚いですね。
荒武
自分の話ですけど、前にカラスにつつかれてケガをした時があって。桜新町アーバンクリニックの五味先生にすぐに相談できて助かりました(笑いながら)。
―― 桜新町アーバンクリニックは、職員のことでも、気軽に相談に乗ってくれる話しやすい先生が多いですよね。
西尾
訪問やデイでの様子をすぐに主治医に共有できることも、とても良いなと思っています。

利用者さんの「マイペース」を守るケア
―― みなさんは、どんな介護士でありたいと思いますか?
荒武
今、「認定介護福祉士」の資格を取るために勉強しているんです。資格者には、介護福祉士を育てたり、地域にでて家族の介護指導をしていくことを求められているので、そんな役割を持っていきたいなって思うんです。
西尾
なかなか難しいんですよね、認定介護福祉士の資格。
荒武
難しいですね。専門的な内容が多くて、1日・2日の研修じゃ頭に入らないです。
―― その資格はどのようにしてとるのですか?
荒武
5年以上のキャリアと、在宅と施設の介護経験が必要で、2〜3年弱くらい毎月研修に行って、テストを受けながらカリキュラムが進んでいくんです。認定介護福祉士になってから事例発表をする必要があって、民間の資格だから更新月ごとに必要なんです。資格者は、全国でもまだ90人くらいなので、これから広がっていく感じですね。
※参考:認定介護福祉士認証・認定機構
―― 資格修得後の荒武さんの活躍に、期待したいです!
西尾
自分は、こうありたいという介護士像はあまりなかったんです。でも、ここに来ていろんな介護士さんと出会ったら、本当に丁寧なケアをしていて。ケアの重要性を改めて感じました。
小林
わたしは、利用者さんがその人らしく暮らしていけるように「寄り添ったケア」ができたらいいなって思います。具体的なエピソードがあるわけではないのですが、スタッフ側のペースに合わせた誘導をするのではなくて、その人らしく暮らせるように、利用者さんの生活のリズムに合わせた声掛けやケアを行っていきたいなと思ってます。
―― わたしたち、ケアを提供する側の都合ではなく、本人のペース、リズムを守っていく、ということですね。
荒武
大事。本当に大事!わかっていることなのに流れ作業になりがちだから、気をつけています。
西尾
NCLで働くようになって、「待てる」ようになりました。NCLのスタッフは皆、ご本人のペースを大事にしているんです。周りがそうだと、自分も影響されてそうなるんです。
たとえ自分ではそれが大事だと思っていても、一緒に働くスタッフが自分たちの都合に合わせて利用者さん方を急かすようなケアをしていると、「よくない」と思いながらも染まってしまうということがあるから…。でもNCLはそれがないから、働きやすいです。
小林
時間で動いてないところがいいですよね。何時までにトイレ誘導しなきゃいけないとか、お風呂介助しなきゃいけないとか、そういうことがないんです。
荒武
NCLは「個別ケア」を特に大事にしていますね。いわゆる施設では、みんな同じ時間割で生活していて、体操の時間には「みんな、体操やるよー」っていう感じが多いですよね。
―― 開設当初からNCLのリビングでは、利用者のみなさんが各々好きなことをしているイメージがあります。「みんなで何かやることが好き」という人もいると思うけれど、ここは各自が好きなことをしていられる場所なんですよね。
西尾
入職当時、「ある利用者さんのお食事が終わったんですが、休んでもらった方がいいですか?」って先輩職員に聞いた時に、「ご本人に聞いてください」って言われたんです。その時にものすごく恥ずかしく感じました。今まで、そうしようと思っていても周りに流されて「何時から何時までご飯」みたいに1日のタイムテーブルで考えてしまっていたのですが、NCLはそれがないんです。
―― とてもいいですね!
西尾
介護士さんたちは、みんな初任者研修なんかを通してそう習っているはずなんです。でも実際に現場にでて「習ったことと何か違う」ということに気づく…、そんな感覚を持っている人たちにぜひこの記事を読んでもらいたいです。周りに、流されなくていいんです。

―― 最後に、これからのNCLの展望を聞いてみたいと思います。どんな場所であってほしいと思いますか?ひとりひとりどうぞ。
小林
「帰りたい」と言う方がいないような、居心地がいい場所になるといいなと思ってます。
西尾
また来たいと思ってもらいたいですよね。それを目指したいです。
荒武
かんたきは自宅での暮らしを支えるしくみだけど、なかには家に帰れなくて施設に行かざるを得ない人たちもいます。そういう人たちも、最期まで馴染みのスタッフが看きれるようにできたらいいのになあ、なんて思ったりします。
―― ご高齢になると、新しい人間関係を築き直すのは大変だったりしますもんね。
荒武
そうなんですよね。「馴染み」になるまでに、ぼくたちは利用者さんともご家族の方とも信頼関係を大切に築き上げていくから、ぼくたちが最期まで伴走できることは、利用者さんだけじゃなくて、ご家族にとっての安心にもつながるなんじゃないかなあ。そうであったらいいな、と思います。

(了)
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『できるだけ長く暮らすヒント集』を発刊!