心と身体のことで困ったら、最初にどこに相談したらいいですか?ー外来チーム座談会

インタビュー 2023.05.26

「かかりつけのクリニックを持ちましょう」という話をよく聞くけれど、「どんな医療者たちが、どんな考えで医療やケアを実践しているの?」と思う人も多いのではないでしょうか。
世田谷・桜新町で地域の医療を実践している桜新町アーバンクリニックの外来チームに、その中心にある考え方や、日頃の仕事への想いについて聞いてみました。

話し手=田中啓広(医師)、村上玲子(看護師)、李善希(事務)
聞き手=尾山直子(訪問看護師/広報)

外来チーム (左から 李・村上・田中)

大切にしているのは、病気ではなく「その人」を診ること

ー 今日は、外来部長の田中啓広先生と、看護師の村上玲子さん、事務として窓口業務に関わる李善希さんにお話していただこうと思います。よろしくお願いします。

田中・村上・李

よろしくおねがいします。

ー 桜新町アーバンクリニックの外来は、どんな特徴がありますか?

田中

当院の外来は地域のかかりつけクリニックとして、子どもから高齢の方まで受け入れています。健康診断や子どもの風邪、高血圧の通院など、定期的にかかっていただくことで、その方の人生や家族の変化、病気の歴史も含めて継続的に診ることができます。家族全員でかかられている方も多いですよ。赤ちゃんとお母さんがそろって熱を出した時も、2人一緒に診察したりとか。
医療的な言葉で言えば、プライマリ・ケア(*)を実践しているクリニックになりますので、まずはその役割である「どんな身体に関する相談もまず受け止める場所」ですね。例えば、「首の腫れがあるけど、どこにかかったらいいか分からないので受診しました」という方もいらっしゃいます。

*プライマリ・ケア:病気だけでなく健康な人も、小児から高齢者まで、病気だけではなく生活背景も含めて、予防接種・健康診断などを通じてその人をずっと診つづけること、を掲げ地域で実践されている医療・ケアの総称。地域にある最初の健康窓口としての役割を持つ。

ー どんな症状でもまず診てくれる、っていいですよね。何か症状が出た時に「何科にかかればいいかわからない」ことって、とても多いから。

田中

そうですね。地域の人たちが健康のことで困ったときの最初の窓口になれれば、と思っています。
まずは診察させていただき当院で診れるものは対応しますし、他の医療機関に紹介したほうがよければ病院受診の手配を行います。また、その困りごとを解決するために、治療ではなく生活への支援で解決することであれば、地域包括支援センターなどの機関への相談を勧めることもあります。

ー 医療だけではなく、生活も含めて診るんですね。

田中

はい。それと「外来から在宅まで、患者さんやその家族を包括的にケアすること」も当院の特長だと思います。定期通院中の患者さんから、その方の父親の物忘れの症状について相談を受けることもありますし、新型コロナに罹患した患者さんに「祖父にうつさないようにするにはどうすればよいか」の相談を受けることもあります。この方の祖父は当院で在宅医療を担当している方でしたから、外来と在宅が連携して家族をまるごと診ている例だと思います。このように、親子2世代、3世代、時には4世代にわたる診療やケアに関わらせていただくことも多いです。このような場合は特に、病気のみだけでなく、その方・家族の特性、症状による家族も含めた生活への影響を考慮して診療をしています。

村上

そうですね。例えば、家族を1ユニットとして一緒に診察室に入ってもらって同時に診る、ということも臨機応変にしていますね。

田中

これもまた当院の特長のひとつだと思いますが、スタッフ全員の中に〈「患者さん」と括ってしまうのではなく「その人」を診る〉という意識があります。
病気を持つという側面から見れば「患者さん」かもしれませんが、社会人として職業を担っていたり、父親であったりするわけですから。レッテルを貼らず、そういう多面的な視点で診ることはとても重要だと思っています。家族とか会社、所属してる社会とか、それに応じて提供する医療やケアはそれぞれ異なることもあるので。

ー おおー。わたしたちが大切にしていることをわかりやすくまとめていただきました。ありがとうございます。

田中

いやいや~(照れる様子)。でも、本当にそうだなと思っています。

ー 事務の視点からは、いかがでしょうか?

わたしは受診相談の電話を受けているのですが、当院は訪問診療や訪問看護などの在宅医療部門もあるので、それを見据えて「高齢なので、今のうちから桜新町アーバンクリニックにかかっておけたら安心」というお問合せもよくいただきます。
外来通院から在宅医療にスムーズに繋いでいけるっていうのは、わたしたちのクリニックの特徴なのかなと思います。

ー 外来チームと在宅医療チームの風通しのよさ、ありますよね。

あと、カルテの写しを患者さんに渡しているのも特徴かもしれないですね。高齢者おひとりで受診されてる方が、「家族に見せられるからありがたい」とか「これがないと困る」って話してくださることがあります。

ー 診察室で難しい診断名を言われても忘れちゃいますもん。診察後にカルテの写しを渡されるのってすごくいいです。

そうですね。とても評判いいです。

ー どんな方が受診されていますか?最近の印象深いエピソードとか。 

村上

毎日、たくさんのエピソードがありますね~
例えば、在宅医療と連携して爪のケアをしている方がいましたね。外来の内科医が診ていたのですが、爪のトラブルが原因で急に歩けなくなってしまって。外来に通ってフットケアをすることが難しくなって、訪問看護チームに自宅でケアしてもらったことがありました。

ー ありましたね。いい連携でした。

村上

かかりつけの方だと、家族や経済的な事情やどんな生活背景を持っているかというのは分かっているから、「歩けないから外来に行けない」という急な変化があった場合も、そういうことを配慮しながら一番いい選択を提案することができます。

ー 外来の看護師さんたちは、かかりつけの患者さん方の話をよく聴いていて、事情をよくわかっているという印象があります。

村上

そうですね。話を聴くことは大切にしています。
外来には色々な専門職がいるんですが、患者さんたちは、医師にする話と看護師にする話、事務さんたちにする話って分けていることが多いんです。「この職種だからこの話」というふうに、役割を理解してお話くださっている。看護師の役割として、それらの話を統合できたらいいなと思っています。

ー興味深いですね。例えば医師だとどういう話で、看護師だとどういう話だったりしますか?

村上

医師には、睡眠状況とか新しくはじめた薬の効果がどうだったかという報告が中心だったりするのですが、看護師のわたしには、体調というよりもエピソードとか、思い出、もやもや感などを話してくれたりとか。それを主治医にもフィードバックしていきますね。

ー なるほど。そういう小さなエピソードひとつひとつを大切にして診療につなげていくことは、先ほど田中先生が話していた「病気だけではなく、その人自身を診る」ためのエッセンスになりそうですね。

地域に開いた「健康の相談窓口」であるために

ー 先ほど、「地域の人たちが健康のことで困ったときの最初の窓口になる」という話がありましたが、当院では事務の皆さんが最前線で電話を受けていますよね。

そうですね。

ー どんな電話がかかってきますか?

先ほども少し話しましたが、「今は外来に通院できるけど、もし今後できなくなった場合を考えたときにお願いしたい」という在宅医療を見据えた相談の方とか。一方で、何も分からない状況で「とりあえずここかな、と思って電話してみました」っていう方もいらっしゃいます。

ー どこに相談したらいいかわからない方が、問い合わせてくれるのってありがたいですねえ

ありがたいです。

ー 電話を受けるとき、どんなことに気を付けていますか?

皆さん困って電話してこられますし、最初の対応が肝心だと思っていて。
当院で診れる症状なら受診してもらうこともありますし、診れない症状だったとしても、看護師たちと連携しながらその方が困らないように案内をしています。例えば時間外に来られた方への対応も、「診れません」だけではなくて他の選択肢を提案することで、少しでも患者さんの困りごとが解決すればいいな、と思っています。

ー 他の選択肢を提案する、っていいですね。

そうですね。「丁寧にありがとうございます」っておっしゃっていただくことも多いので、最初の対応の大切さを再認識したりします。

ー 「こういう病状・症状なんだけど、どうしたらいいですか?」みたいな電話もあります?

ありますね。そういう時は事務の方で細かく聞くこともありますし、症状のことは事務では判断が難しいのですぐに看護師と連携を取って対応します。

ー なるほど。看護師の村上さん、1日にどのくらい対応していますか?

村上

そうだなあ、1時間に1本くらいは対応していますねー
かかりつけの患者さんもはじめての方も両方いらっしゃいますね。コロナ禍になって、特に増えました。(コロナの)最初のころは「こういう症状があるけどどうしたらいいか」みたいな相談とか。内科だけではなくて当院には心療内科や婦人科もあるので、いろいろな症状に対応しています。

ー そのまま当院の外来に受診してもらうことが多いですか?

村上

内科医はいつもいるので基本的にはうちで診れるんですけど、なかには診れない症状もあります。例えば大きく傷が開いたりしているなどの外傷で、外科的な処置が必要になる時とか。そういう場合は他の病院を紹介したり、電話をかけてきた患者さんが一番最短で適切な治療を受けられるような提案をしてますね。
生命の危機的な状態であれば「その状態なら救急車を呼びましょう」ってお伝えすることもあります。看護師の判断が難しい症状の場合は、医師たちはいつも相談に乗ってくれるので相談しながら対応しています。かかりつけの患者さんのことであれば、電話を切った後に必ず医師に報告します。

ー 外来チーム、本当にチームワークがいいですよね。違う部署に所属しているわたしも、いつもそう感じていました!

「人生の健康」とは、折り合いをつけて生きていくこと

ー みなさんの考える「人生の健康」ってどんなことですか?

田中

メディカル・ジェネラリズム(*)という考え方が外来チームの根底にあるのかな、と思っています。これは2010年ころにイギリスの英国総合診療学会が定義した概念で、より健康的な社会を作り出すためのものです。
健康の概念や医療の捉え方も変わってきていて、疾病ではなく人を中心とした、健康そのものを目的とせず、その人が幸福な生活を送る上での手段として医療を捉える考え方を表しています。この概念を知って、老若男女問わず、仮に病気や障害を抱えていたとしても自分の好きなことができて、自分が納得できる暮らしができることが「健康」だと思いましたし、そういう方々の生活を支えるにはどうしたらいいか?と常に考えています。医療の側面からお手伝いできればいいなと思っていますね。

*メディカル・ジェネラリズム:疾病ではなく人を中心とし、一時的ではなく継続的な診療・ケアを実践し、生物・科学技術を人の生き方に合わせ活用する。病気を治すことだけを目的とするのではなく、生活を送る上での手段として医療を捉える考え方。

村上

そうだなあ・・わたしは、色々なものに折り合いをつけて生きていくこと、でしょうか。
健康というのは、本人や家族だけじゃなくて周辺のサポートも含めて、多くのものと上手に折り合いをつけて、今の生活を営めることかなと思います。

本当にそうですね。
もちろん病気がないことが一番良いのでしょうけど、病気と日々向き合いながら、例えば好きなものを食べられたり、行ってみたいところに出かけたり、自分の好きなことができるのもひとつの「健康」ではないでしょうか。
地域の人たちが、体調の変化を感じた時にまず最初に聞いてみようって思えるサポートができたらいいなって思いますね。わたしは事務なので、受付窓口で。

ー 患者さん方にとって、受付の事務さんたちってクリニックの顔だと思うんです。対応次第で、また相談に来たいって思えるかどうかが決まる、すごく大切な役割ですよね。

村上

新患の方が増えていっているのは、もちろん医師の対応もそうなんだけど、事務の対応がいいということだろうと思います。
受付で保険証や介護保険証、処方箋のやり取りが発生して、ご高齢だと多数の書類が行き交うやりとりに緊張されることもあると思うんです。でも事務チームは決して患者さん方を急かさないようにしていて、焦らず待つという姿勢があるから、次も安心して外来にくることができるんじゃないかな。

みなさん、「いつも遅くてごめんなさいね。ゆっくりでごめんなさいね」っておっしゃられることが多いですが、丁寧な対応を心がけていますね。1回の対応で印象が変わったりするので。そういう受付でありたいなって思います。

ー ある患者さんのご家族が「田中先生のことを信頼している」っていう話をしてくれたのですが、それは、看護師や事務さんたちとのやりとりを見ていて、田中医師が他の職種の人をリスペクトしているのを感じたからって。それで「信頼できる先生だな」って思ったっていう話を聞きました。

田中

ありがたいですね。それ、自信がない医者と思われているのではないですよね?(照れながら)

村上

(笑いながら)田中先生の仕事ぶりを見て、自信がなさそうとは思わないですよ。

田中

個人個人で違う「どんな状態を健康と思うか」という価値観を知って、その人の望む健康を実現するために、ご家族含めて一緒に考える医療を行っています。病気を抱えながらも家で暮らしたいということなら、看護師さん・介護士さんのケアが中心になってきます。看護師さんは、医師よりも患者さん・家族とコミュニケーションを取る時間も長く、内容に深みもあると思います。その人に合ったケアを提供するには、ケアに関わっている皆さんの話を大切にしないと、いい医療・ケアができないと思うので。

ー 看護師としてはうれしい言葉ですね〜。ありがとうございます。

誰にでも開いた場を、常時、提供しつづける

ー わたしたちのクリニックは桜新町の駅近くに位置していますが、この地域の中でどういう場所でありたいと思っていますか?

田中

繰り返しになりますが、心と身体の困りごとの最初の相談先ですね。コロナ禍からはじまった発熱外来(※現在は発熱外来は中止、通常の外来診察で対応しています)も当然だと思いはじめました。それはプライマリ・ケアの任務のひとつだし、かかりつけの患者さん・地域の皆さんが熱を出して困っているのに診療しないことはありえないことだと思います。

村上

わたしは、地域のなかで「誰にでも開いた場を常時提供しつづける」っていうことを、自分たちができる身の丈でやってる感じがします。

田中

敷居は低く、ね。

村上

そうそう。地域に溶け込むように、っていうような感じですかね。田中先生の人柄もあるんでしょうけど、どっちかっていうとそういう印象じゃない?

ー 誰でも相談できる場として地域の中のひとつの役割を担っている、みたいな感じでしょうか。

村上

そう!そういう感じ。他の地域の医療機関とも連携しながら。

田中

もう普通にプライマリ・ケアを。

ー 常に開いていて、困った人がいたら、いつでも。

村上

はい!いつでも桜新町アーバンクリニックの扉を開けてください!

 了 

※ 利用者さまの許可を得て、写真を掲載しております。

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