作業療法士の目線 ー訪問リハビリって何ですか?

インタビュー 2023.02.14

お家での作業療法は、その人の生活の文脈を読むこと

伹野

普段の生活が仕事に繋がっていきますよね。作業って生活だから。プライベートの生活が仕事に繋がっている感じがします。

ー 繋がったエピソードあります?

伹野

買い物をしていて家電を選んでいるとき、「これ操作がシンプルだから多くの人が使えるな」とか。自分の時間のなかでも、ふと考える時があります。あと、僕はベースをやってるんですけど、ベースを覚える過程とかは運動学習の理論かなって。

ー 運動学習の理論って?

伹野

はじめは楽譜を見て集中して弾くと思うんですけど、練習するうちに楽譜を見なくても指で覚えて弾ける状態になる。専門用語でいうと「手続き記憶」ってことなんですけど。

ー 身体が覚える、という感覚ですね。

伹野

脳でいうと、最初色んな脳の領域を使っているんですけど、だんだんその領域が減って、効率よく脳を使って、考えなくてもできる、っていう。「こうやって人間の脳は覚えていくんだな」って。

村島

例えば、部屋の明かりをつける時、自分の部屋の明かりって手探りで付けられませんか?あれは、部屋のスイッチの場所を身体が覚えているからですよね。このくらい関節を動かすとスイッチに届くっていうのを、身体が覚えている。それは運動学習で習得した技、と言えます。

ー わたし、朝ぼーっとして家を出ても、鍵がちゃんと締まってるんですよ。あれ?締めたっけ?って記憶にないんだけど、いつも締まってるんです。そういうこと?

村島

ああ、それは手続き記憶の中で生きているってことですね。

ー 迷わずに鍵を選んで締めて、決まったポケットに入れているんですよ。

村島

その域にたどり着くまでに、どんな能力が必要でどんな工程が必要かということを考えてみると、鍵穴に鍵をすっとさせるのは、関節が空間を把握していることもそうだし、最初は目と手と対象物の距離感をはからなきゃいけないっていう空間認知能力とか、適切にリーチできる腕の動き、小脳の動き、協調性というのが繋がっていることが必要ですね。作業療法士はそういう分析をしています。

ー なるほど。そう思うと、〈住み慣れた家〉って、それだけ頭で考えなくても生活できる場ってことなんですね。高齢の方にとって、馴染んだ家から出て生活するということが、どれだけ脳を使わないといけないのかっていうことが、今の話から再認識できました。

村島

本当にそうですよね。例えば手すりひとつつけるのでも、本人の習慣を大切にする必要があります。習慣化された動きの延長に設置できるように、お家の中を何回も動いてもらって、自然とすっと手が伸びる場所に手すりを設置する、という考え方をしています。

伹野

お風呂の入り方も人それぞれ違ったりしますね。浴槽のまたぎ方も、前からいく人もいれば横からいく人、縁に座ってまたぐとか。そういうことが大事なんですよ。そういう細部に、その人らしさが出てくる。

ー 分かります。看護師も同じですね。その人の文脈に乗っていく、みたいなことはありますね。

村島

そうそう。その文脈が無視されてしまうと、介護の拒否・ケアへの抵抗ということにつながりやすいですよね。本人から言わせたら、「自分がやりたい手順と違うんだから、直してくれよ」という気持ちだったり。そういう積み重ねで、本人とケアをする人の気持ちがズレていってしまう・・いうことは度々ありますね。

ー ただでさえ思ったように身体が動かなくて困っている中で、ケアをする側に合わせた手順に変えることは、本人にとってすごく大変なことなんですね。

医療・ケアチームのなかでの、作業療法士の存在とは

ー 作業療法士さんについて当院のスタッフに聞いたら、医師も看護師もみな絶賛してて。生活に直結するリハビリや提案をしてくれるから、作業療法士さんが加わることで「豊かな暮らし」につながりやすいって言っていました。

瀬戸口

わー、うれしいですね!

ー 癌の緩和ケアの方へのリハビリがすごく良かった、という声もありました。最後の残された時間が、少しでも豊かに暮らせるための支援を作業療法士さん達がしてくれる。それはすごいケアだと思います。

村島

身体の痛みに対しては、医師や看護師と相談しながら身体の位置を調整する(ポジショニング)ことで、和らげられる痛みがあったりします。心の痛みに対しては、やり遂げたいことを少しでも一緒に叶えたり、残されていく人に対して伝える・まとめる作業をしたりとか。その人の想いに合わせて提案しています。

ー リハビリの時間があることが、希望というか、精神的な支えになっている方もいらっしゃったから、作業療法士さんの入る緩和ケアっていいなって思っています。

村島

このクリニックの良いところは、残される家族と豊かな時間を過ごせるようにどうしようか、っていうのを皆で考えて、行動に起こせるってところですね。「最後の花見をしたい」って希望があって、それをなんとか楽しめないか、というのでスタッフ総出で出かけてみたりとか。そういうのは多職種のチームだからできることだと思っています。

ー 作業療法士さんがいると、花見に行けない人がいたとしたら〈それができない理由は何?〉を分析して解決して、実行に近づけることができますよね。

村島

それは、このクリニックが楽しんで受け入れてくれる職場だからです。クリニックの皆が「いいじゃん!!やろうやろう!」ってのってくれるからこそ、わたしたちもすごくやりがいを感じています。

伹野

リハビリチームでやりたいと思っても、他のスタッフの協力がないとできないことも多くて・・。このクリニックの良さは、大きなチーム力ですよね。

ー 作業療法士が活きる職場だ、ということですね。

伹野

と思います!!

ー 病院などはリハビリの職種だけで部署が分かれていたりしますけど、当院のように看護師や医師と混ぜこぜになって仕事をするのは違いますか?

瀬戸口

全然違いますね。

伹野

看護師さんから「こういうことを解決したいから、訪問に同行して!」って話をよくもらうんですが、僕が気づいていなかったことだったりする。看護師さんは、利用者さんが何ができて何ができないかをよく知ってるので、教えてもらうこともたくさんあります。

ー 看護師と作業療法士、視点が違ったりしますもんね。

瀬戸口

視点が違うから気づかなかったことにも気づけるし、訪問看護師さんは利用者さんとのコミュニケーションを大事にしていて、ふとこぼした一言を流さずに、その背景にある問題を表面化してくれたり教えてくれたりする。頼もしい存在です。

伹野

看護師さんと一緒に仕事をしていて、リハビリにはない死生観を持っていると僕は思いました。亡くなってしまったらそこで終わりなんだなあって思っていたけど、エンゼルケア(※)とか亡くなった後もケアが続いているんだって。残される家族のこともすごく考えている。訪問看護、ここまで考えるんだ、っていう驚きがありました。看護師さんがいなかったら気づかなかったなあ。

ー うれしいですね。看護師もたくさんの視点を作業療法士さんからもらっていますよ〜

※エンゼルケア
お看取りのあとで、身体をきれいに整えるケア。家族とともに行うことで、家族が気持ちを吐き出したり、思い出を語るなど、大切なお別れの時間となる。

人生の健康とは、「心地よく居られること」

ー 作業療法士さんが考える「人生の健康」。どう考えてます?

瀬戸口

脅かされないこと、です。怖いとか、恐怖とかじゃなくて、安心して心地よく居られること。自分自身もだし、その人の周りを囲む環境も含めて、心地よく居られることではないでしょうか。自分もそういう状態でいたいなって思います。

ー なるほど。そういう状態に居続けることができるように、というのも我々の仕事かもしれないですね。

伹野

居られるだけじゃなくて、自分の好きなこと、”自らの心から湧き上がるようなことをやっている/できている”っていうのもあるんじゃないかな。何も作業しなかったら退屈だし、逆にいっぱいありすぎても大変じゃないですか。適度に、かつ「やれてる」って実感できるような負荷量を、安定した環境でできることが健康なんじゃないのかな。自分なりのバランスが取れて。そんな風に思います。

ー 作業療法士さん的な視点ですね!作業って、人生を占める活動ってことですもんね。

村島

わたしが思うのは「自分がこの世の中に存在してるなって実感できること」ですね。
家族という社会であったり、地域社会、いろんなコミュニティ。そこにアクセスするためには、心身ともに落ち着いている状態じゃないとできない。アクセスできて、かつ、自分に戻ってくる矢印もある。双方向の矢印があってこそ、「自分がここにいる」って感じられると思うから。
健康とは、自分が自分らしくあること。それと、“自分が存在している”って認識できていることなのかなって思います。

ー なるほど。社会との関係性のなかに健康がある。

村島

多様性っていうけど、「自分が存在している」って思えない気持ちを抱えた人は多いですからね。

瀬戸口

地域の中に、実は作業療法を必要とする人がいるのに埋もれてしまっているんじゃないか?という課題を感じることがあります。一般の人も、医療関係者も、「病気なんだから、障害があるんだから出来なくても仕方ない」って流されてしまっていたり・・。だれかがアンテナを張っているのがいいのか、困っている人が声をあげられる環境を作ったほうがいいのか、どうしたら良いんだろうって考えています。

ー それは大事ですよね。地域のなかに作業療法を知っている人が増えたら、豊かな人生を送れる人が増えるかもしれないですもんね。

伹野

自分がやってる「作業」を通して社会と繋がるという、そういう考えもありますね。

村島

活動することだけじゃなくて、「集団に属する・参加する」ことそのものを「作業」と捉えることもできます。自分の居たい場所に居られるっていうのが、一番いいんじゃないかな。

ー 居たい場所に居られなくなってしまったときには、作業療法士さんが一緒に方法を考えてくれるわけですよね!

村島

そうですね。わたしたちがお家まで伺って、一緒に考えます!

 了 

※ 利用者さまの許可を得て、写真を掲載しております。

1 2

ページの先頭へ戻る