「死ぬまでおいしく食べる」ってできますか?〈前編〉

インタビュー 2022.11.08

語り手:青木奈々(摂食・嚥下障害看護認定看護師)
聞き手:尾山直子(看護師/広報)


80代になってもお煎餅を食べ続けるために

ー今日は、摂食・嚥下認定看護師の青木さんに、「年を重ねてもずっとおいしく食べられる」ためのコツを聞いてみたいと思います。

よろしくお願いします。

ー「摂食・嚥下」ってどのようなことを指すのですか?

口から食べて・飲み込むという、食べる機能のことです。
食事をする、栄養をとる、動くためのエネルギーにする、食事を楽しむということも含まれていますが、「摂食・嚥下」という表現は、主に食べるための機能のことを指しています。

ー青木さんは、その「食べる機能」について専門的に勉強した看護師、ということ?

そうですね。

ー食べることって、年を重ねていくとどのように変わっていくのでしょうか?

身体って、筋肉を使ったり神経に支配されて動きますよね。年を重ねると歩くのが苦手になったり、筋肉が弱っていったりっていうのをイメージされると思いますが、食べる機能もそれと一緒で、筋肉が弱ることでムセやすくなるだとか、食べづらくなるということが起きていきます。

ー若い頃に当たり前のように食べられていたものも、食べられなくなってしまいますか?

同じ年齢でも色々な方がいらっしゃいますね。食習慣や、口腔内、歯の状況などによって、80代になってもお煎餅をバリバリと食べられる人もいれば、60代でも歯がなくなってしまってお煎餅を噛むことがうまくできない人もいます。

ーお煎餅をバリバリ食べられる80代になりたいです。

どんな人でも食を楽しめて、好きなものをいつまでも食べつづけることができる。摂食・嚥下認定看護師の役割のひとつとして、そういった機能を維持する手助けができたらと思っています。そのためには、予防が大切なんですよ。

ー予防って、例えばどんなことをするといいんですか?何歳くらいから?

わたしは40代ですけど、普段から気をつけなくてはならないのは歯のことですね。

ー歯、ですか。

食べるって、「もぐもぐ噛む・飲み込む」なんです。ただ飲み込むだけが「食べる」じゃない。なので歯の健康状態ってすごく大事です。オーラルフレイル(※)っていう言葉があるくらい、「口の中が弱っていくことを予防しよう」という考えが広まっているんですよ。
いつからでもはじめられることとして、口の中の環境を整えておくとか、歯医者さんで定期的に点検するとか、そういうことは大切です。


※ オーラルフレイル
  まだ取り戻せるうちに口の中の弱りに気づき、はやめに対処していくことで、健康寿命が伸びていくという考え方(詳細はこちら▶︎ 日本歯科医師会

おいしく食べる。その「当たり前」を取り戻す

ー正月に餅を詰まらせるニュースをよく見かけますが、年を重ねると飲み込みが弱くなっていくんですよね。

毎年いらっしゃいますよね。飲み込みの機能もそうですし、唾液もすごく大事です。年を重ねてくると、唾液が出づらくなっていきますので、餅とかパサパサした食べ物を喉につまらせる危険が高くなるんです。

ー詰まらせる前に「そろそろ危ないぞ」って気づくきっかけってありますか?

本人が気がつくとすれば、唾液が減って口が乾きやすい、飲み込みづらいものや噛めないものが増えたとか。「あえてご飯を柔らかく炊くようになった」という場合などは、機能が低下しているんだなって気づけると思います。
あと、栄養面も大切ですね。食べる量や体重の減少などにも気がつくことができるといいですね。

ーそういう状態になったら、何に気を付ければいいですか?

唾液が減っている代わりに、食事と一緒に水分をとることや、話をしたり歌ったり唾液腺から唾液が出やすくなる環境をつくるっていうのも大事ですね。一人暮らしで閉じこもりがちな人はしゃべることが少ないので唾液が出づらくなる、というのはあると思います。

ーおしゃべりは大事なんですね。

大事です。おしゃべりの場や何らかのコミュニティを持って、人と会う機会を持つというのは「ずっとおいしく食べられる」ことにつながると私は思っています。それと、お口の体操も効果がありますね。おしゃべりができないときは、歌を歌うことや、早口言葉など、声を出すことが食べる機能と結びつくんですよ。

ー口の中の環境を整えて、時々歯医者さんにも点検してもらって、おしゃべりできるつながりを持ちつづけることが、「ずっとおいしく食べること」のために大切なんですね。

「食べること」って、日常だし何十年と繰り返してきた“当たり前”のことだから、その楽しみやかけがえなさに気づかないで過ごしているっていうこともまた“当たり前”なんです。
食べづらくなったり、例えば入院して食べられなくなったりしたときに、食事がいかに自分にとっての楽しさであったかとか、おいしいって思えることのかけがえのなさに気づくんですね。そういう姿を看護師としてたくさん見てきました。

ー当たり前のことを失いそうになってから気づくことってありそうです。そのような状況になったときでも、死ぬまでおいしく食べつづけたい。それって可能だと思いますか?

ある程度可能だと考えています。「食べる機能が低下しても、食べられる方法がある」っていうことをわたしたち看護師は知っているから、おいしく食べることとか、そういう「当たり前のことを取り戻す」というところを手伝っていきたいという思いはありますね。

ー専門家に相談したいときはどうしたらいいですか?

そうですね〜。一般的にはかかりつけ医へ相談ってことになりますが、医師も専門性がいろいろです。ただ、医療の場で相談することからつながる社会資源ってあって、主治医から専門の医療機関につないで検査を受けられたり。あとは、インターネットで「摂食嚥下関連医療資源マップ」というのがあって、自分の住む地域で飲み込みの検査をしてくれるクリニックや病院が見つけられるというシステムもありますよ。わたしも活用しています。

ー桜新町アーバンクリニックにも相談できますか?

かかりつけ医が決まっていないなら、当院の外来に受診して相談してみるのもいいと思います。
わたしは在宅医療部に所属していますが、クリニック内は外来も在宅医療部も連携しているので、外来の先生から相談を受けたりするなどのネットワークがあるんです。

ー後半は、青木さんに「食べる」の専門家としての想いや現場での様子をお伺いしていきます。

〈前半・終〉

ページの先頭へ戻る