桜新町アーバンクリニックが目指すもの

インタビュー 2022.03.31

語り手:遠矢純一郎(院長)
聞き手:尾山直子(看護師/広報)


桜新町アーバンクリニック、はじまりの物語

ーインタビュー、よろしくお願いします。

よろしくお願いします。改まると緊張するね(笑い)

ー今日は遠矢先生から、クリニックがはじまったときのことや、これから目指したいものなどを聞きたいと思っています。

そもそものはじまりはね、むかし病院で働いていたときの経験からなんですよ。「本当に医療が患者さんに寄り添えているのかな?患者さんが抱えている辛さ、不安に対してちゃんと返せているかな?」と医療現場にいながら感じていたんですよね。それは、外来や、救急現場や、病棟で人を看取るとか、そういう経験のなかで、外来はとても混雑していてお待たせしてしまったりとか、病棟も窮屈な想いをさせてしまったりとか、この人にとってこういう看取りが本当によかったんだろうかとか、そういう問題意識があって。「もっと日本の医療をよくすることができないか」という想いを同じくする人たちと、「モデルになるようなクリニックを立ち上げよう」と2000年に創立したのがはじまりなんです。

ー当時、どんなクリニックを目指していましたか?

「地域に根ざして、どんなことでも受け止めてくれる、話を聞いてくれる、そばにいてくれるクリニック」というのをコンセプトにしてクリニックをつくりました。
当時はまだ「家庭医をやります」というところはなくて、どこのクリニックも糖尿病専門だとか循環器専門だとか、専門科があるのが普通だったから。うちが家庭医という看板をあげて「専門はない、なんでもみます」と言うと訝しげにされたこともあるんですよ。
赤ちゃんから高齢の方まで、病気とか年齢で分けることなくすべて自分たちで受け止めようと思ってやってきたし、それは今も変わらない。そのスタンスで患者さんのことに対して向き合ってきました。

目の前の患者さんの困りごとに向き合った結果、今の形がある

ー外来だけではなく、在宅医療部を立ち上げようと思ったのはどうして?

それは、外来で目の前の患者さんの訴えや困りごとが、医療的な関わりだけでは解決できないことが多いと思ったからなんです。医療ってその人の生活と直結しているから、家族の関係性や、地域のしくみだったり人々だったりも巻き込んでいかないと根本的な解決にならない。それで、外来だけだったのが在宅医療や訪問看護など、必要だと思ったことを広げてきた結果として今の形がある、といった感じかな。

ー看護小規模多機能居宅支援事業所(以下、かんたき)とか認知症在宅生活サポートセンター(以下、にんさぽ)もその流れで?

在宅療養している方の病状が落ち着かなくて家族も不安を抱えていて、でも入院するほどのことはないけど、ずっと自宅で看ていくのは大変みたいなことがよくありますよね。もちろん本人や家族もできるだけ自宅での生活を続けたいと思っているわけで。特にうちの在宅医療は医療的なニーズが高い方が多いので、普通の介護施設ではなかなか対応できないこともある。2012年に介護保険サービスとして誕生したかんたきは、看護師もいるし、そういう医療と介護の間で困っている方を支えられると思ったんです。
今まで介護の人たちとチームとして仕事をしたことはなかったけど、かんたきを守ってくれているのは彼ら。地域ケアの最前線に介護士さんたちがいて、その人たちとかんたきを通してチームとしてやることで、ぼくはとても勉強になってる。向こうはどう思っているかわからないけど(笑い)。そういう意味でも、かんたきをやりはじめて、運営の難しさはあるけどやりがいがあるなって。大切にしていきたいなと思っています。

あと、世田谷区から委託を受けているにんさぽもそう。認知症の初期の方々の家に訪問し、専門的な知識やスキルを生かしながら、困りごとに対応していく方法を家族や地域の人たちとつくりあげていく・・・。人と関わることに抵抗感がある認知症初期の方って多いけど、彼女たちはうまく入り込んでいって信頼関係をつくりあげていくんです。あれはもう、職人技だなって。本当にすごいの。困っている方はぜひ相談してほしいなって思いますね。

ー桜新町アーバンクリニックは外来から介護まで幅広いチームですが、外来や在宅で医療を提供しつづけるなかで見えてきた「必要なこと」を補っていった結果なんですね。

そうですね。特に在宅医療をはじめてからかな。暮らしを支える必要があるので、薬を出せば解決できることって少なくて。例えば一人でずっと暮らしたいという方がいたら、地域とつながっていく必要があったり。そういう広がりは、在宅医療をはじめた事がきっかけでしたね。「この人、もっとこういうサービスがあれば支えられるのに」って思うことを、ひとつひとつ実現していったんです。

行動力のある、患者さん想いのスタッフが多いチーム

ーここには、どんなスタッフの人がいますか?

ここで働いてくれるスタッフたちは本当に患者さん想いで、そのためならなんでもやるという、行動力のある人たちですね。何か地域の課題があって必要なことをやろうとするとき、看護師や事務方や、色々な職種のスタッフたちが「どうやったらそれが実現するか」を一緒に考えて行動してくれるチームなんです。それがぼくは本当に心強い。ぼくに対してだけじゃなくて、メンバーひとりひとりの課題意識に対して同じことが起きるんです。
だから、現在の形は開業当初には全然思ってもみなかったことがたくさんあって。こんなに在宅医療のチームが大きくなるとか、こんなに訪問看護を広くやるとか、こんなに訪問用の自転車が並ぶとか(笑い)。かんたきとか、にんさぽとか、まさかそういうことができると思っていなかったけど、それがどんどん実現するたびに、自分たちができることが増えていくのがとても嬉しいですね。

ーわたしは前職が病院勤務だったのですが、在宅医療の医師たちが病気や薬のことだけじゃなくて暮らしのことにも熱心に耳を傾けるのに驚いた記憶があります。

最初はそうではなかったの。やっぱり患者さんも「これは先生たちにいうことじゃないから」って、薬や病気の相談以外はしてもらえないことも多くて。でも外来と違ってひとりひとりの患者さんに時間をかけられる在宅医療では、医療の意識が暮らしの方にも目が向いていくんだよね。実際患者さんのお宅で診療するわけだし。

ー実際、そっちのほうが困っていたりしますもんね。

そうそう、そうなんです。ぼくたちも、聞いたからには解決したいっていうのもあるし。本質的には、病気や薬のことというより、そういう生活の困りごとのほうが問題だったりするしね。

ー患者さんたちも驚いていることが多いですよね。「先生にこういう相談もしてよかったんだ」とか。

在宅医療ってどんなことをしてくれるんだとか、そういうのわかりづらいもんね。とはいえ医師には言いづらい患者さんも多いんだけど、そこは、看護師さんたちの患者さんの本音を拾ってくれるという力に助けてもらっているんです。うちが往診に看護師を同行してもらっている目的の一番はそこにあると思っていて。決して医者のサポートをするばかりじゃなくて、医者に言えない患者さんが抱えていることを嗅ぎ取ったり掘り出したりするのがすごく上手なの、看護師さんたちって。それをぼくらに教えてくれるのは、すごく大事なことだと思っています。

ーありがとうございます。やる気でました(笑い)。うちには、医師や看護師の他にも、たくさんの専門職種がいますよね。

それはうちのもうひとつの特徴だよね。専門職種がたくさんいて、チームを大きく・強くしてくれているというか。相談員も薬剤師もケアマネもリハビリのスタッフもいて。個々の働き方もそうだけど色々なところとつながって広げてくれるんだよね。
例えばうちの薬剤師は、地域の薬剤師さんとまさに顔の見える関係をつくってくれましたね。在宅医療をやってみたいけど迷っているような薬剤師さんがいたら「一緒にやろうよ」って引っ張り込んでくれたりとか。相談員も、地域のことをわかってくれていて病院の連携室とつながって、病院から在宅医療にスムーズに移行できるように形づくってくれてる。「在宅医療って何?」って不安になっている患者さんにとって何が大事か、どうしたら安心されるのかを考えて、みんなとコミュニケーションを取りながら動いてくれている、かけがえのない人たちです。
それと大事なのが、とても協力的で仕事が素早いうちの事務さんたち。何かと振り回してしまっているけど、たとえば新型コロナ方への往診やワクチン集団接種のように、地域にとって必要な医療を新たにやろうとするとき、それを実現するには、診療の前後でいろいろ細かい調整や処理が必要になる。ミスやトラブルがないように。そうした大事なバックヤード的な仕事をがっちり守ってくれているおかげで、僕らは安心して医療に集中して取り組める。信頼しています。

ーメディヴァ(※)との関係、そしてわたしたちのミッションについても聞かせてください。

ぼくらのミッションはひとつのクリニックを作って終わりじゃなくて、社会にとってよい医療の形をつくって普及させていくこと。このクリニックは、そのための最前線基地です。患者さんや地域の人にとって何が必要かということを考えて、行動して、創造していくこと。それを現実的に社会に普及できるように、システム化して、社会へのつながりをつくってくれているのが医療コンサルチームのメディヴァです。医療法人社団プラタナスは7つのクリニックがあって、それぞれが外来とか在宅とか健診があるんだけど、それぞれ経営の部分や働く人の満足度があがるように動いてくれている。ぼくらは医療のプロフェッショナルだし、彼らは経営や運営のプロとしていざというときに支えてくれる。心強いパートナーですね。よい相乗効果があると思っています。

※ 医療法人社団プラタナス創業時からの経営面を支援してきた医療コンサルタント会社

世田谷区での地域医療、そして「人生の健康」とは?

ー遠矢先生の考える、地域医療のおもしろいところってどんなことですか?

ぼくも医者になって7,8年は病院で働いていたの。病院は医療としては完結しているんだけど、その外に出てみて、「病める人を支えるには、医療だけじゃ足りないんだ」ということに改めて気づかされたんです。
地域医療って、手術室とかそういうのはないけど、患者さん方の困りごとを解決できる医療の広がりがある。どんな大きな病院でも成し遂げられないことが、地域の力で成し遂げられる。世田谷というこの場所も、行政も活発に動いてくれているし、民間の人たちもおもしろい動きがある。この場所でよかったな、と思います。

ー世田谷区はいろいろな活動している人がいるから、医療・介護に限らず、地域や文化をつくっていくためにつながっていけるといいですよね。

そうそう、本当にそうだよね。

ーホームページのキャッチコピーにもなっている、「人生の健康」って何でしょうか?

「健やかであること」って決して病気がないということでもないし、認知症がないということでもないし、貧しいか富めるかということでもないし、そういうことじゃなくて。最近ぼくは、色々なつながりがあることかなぁって思っています。

ー仕事を通して多くの人と出逢いますが、同じ病気で同じような病状だけど、健康的な人と、不健康な状態にあるなという人っていらっしゃいますよね。

そうなんだよね。癌があってもね、寝たきりでもね。笑顔で人に接せられたりされている方と話していると、健康的だなって思いますよね。

ーはい。障害を持って色々と生活のしづらさを抱えていても、活動的に、健康的に過ごす人もたくさんいますし、現場で出逢うそういう方々からいつも学びをもらっています。

本当だよね。人生が変わっちゃうような病気や、事故や、そういうことって誰に起こってもおかしくないけど、それをどう受け止めて立ち上がれるかって人によって差があって。ぼくたちが支えたいのはそこだなって。
ぼくたちが関わる患者さんの多くは、病気がなくなるとか、辛い症状がすっきり消えるというわけにいかない人がほとんどだけど、ぼくらはそこから逃げずに、病気がなくならなくてもその人が健康を取り戻すまで、「ぼくたちはここにいるよ」っていうスタンスで支えていきたいですね。それはぼくらにとって歓びだし、そういう医療をやっていきたいと思っています。

ー最後に、アーバンがこれから目指すもの。締めの言葉をお願いします!

締めの言葉!大きいな〜。そう言われちゃうと迷っちゃうなあ。

でもね、ぼくは常々一緒に働くみんなが幸せであることが何より一番だと思っているんです。それ抜きには、その先にある患者さんの幸せは支えられないなって。だから、スタッフのみんなが健やかで自分らしさを発揮しながら仕事していけたらいいなって思ってます。ひとりひとり違いがあるわけだけど、その違いをおもしろがりながら、みんなで「人生の健康を支える」という目標を目指していけたら。その目指し方も、歯を食いしばっていくというよりも、歓びとかおもしろさとか、そういうものを共有していける場でありつづけられるように、変化しつづけるチームでありたいって思っています。

ーこれからも、変わり続けていくんでしょうね、桜新町アーバンクリニックは。

たぶんね。人々の価値観や社会も変わっていくわけだから。今回のコロナでも大きく変わったように、こういうことって時々起こるから。同じところにずっといると、ずれてきちゃう。変化しつづけていくことは強さになると思います。
ぼくたちは、決して変化することを恐れない。同じことを続けていけばいいんだったら、安全だし安心かもしれないけど、それってだんだん廃れていくし、おもしろくなくなっていくし、時代とあわなくなっていくから。

ーたしかにそうですね。そうやって変わりつづける中にも、変わらない軸というのはありますか?

それは、患者さんの歓び、そして一緒に働いているスタッフの歓びですね。それは常に一番の目標です。そうなるためにはどう変わっていけばいいのか、どう追い求めていけばいいのか、という。変わらない軸は、みんなが幸せであるための場でありつづけることです。

ー目指していきたいですね!ありがとうございました。

ありがとうございました。こんな感じのインタビューで大丈夫だった?(笑い)

以上

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