在宅医療部

在宅医療を受けるには

「在宅医療を受けるには」 桜新町アーバンクリニック 遠矢純一郎

こんにちは、桜新町アーバンクリニック院長の遠矢純一郎です。今回は、「在宅医療を受けるには」という観点からお話してみようと思います。

いま、国の医療政策は「病院から在宅へ」という方向に動いています。医療費の高騰が叫ばれて久しい我が国では、厚生労働省はいかにして医療費を削減するか、医療の効率化をどう進めるかに頭を悩ませています。入院が長引くほど医療費がかさむため、入院期間を欧米並みに短縮して、病気の急性期や手術などの必要な治療が終わったら、なるべく早く退院させるよう促しています。「まだ体力的に不安だから、もう少し入院させて欲しい」という希望は却下され、高齢者の場合、まだ車椅子の状態で退院することも少なくありません。病院は「治療」してくれる場所ではありますが、若い人の場合と違って、80代、90代の人たちが入院すると、そう簡単には「元に戻ること」が出来なくなります。それが「老化」ということであり、そのことを受け入れないと、病院がとても理不尽で冷徹な場所に感じられてしまいます。

退院すると、そこから先は自宅での療養ということになります。まだ身体的な不安も大きいため、このタイミングで在宅医療を受け始める方が多いです。病院には「退院支援」や「地域連携」という部署があり、専門の担当者が在宅医の紹介や退院後の療養環境の調整について手配してくれることが多くなりました。あるいはずっと自宅で過ごされていて、そろそろ体調や体力的に病院やかかりつけへの通院が難しくなったような場合にも、在宅医療にバトンタッチすることが出来ます。在宅医療は、病院に通院する代わりに、定期的で継続的な在宅医の訪問を行うのです。定期訪問は病状が落ち着いている方なら2週間に1度程度、退院直後や病状が不安定な場合は毎週、あるいは週に数回訪問することも出来ます。自宅での療養でなにより不安なことは、「もし状態が悪くなったり、急変したりしたらどうしよう!」ということでしょう。そのため在宅医療では、救急病院と同様に、24時間365日臨時体制を取ることが求められます。在宅医療の初回の訪問時には、必ず24時間つながる連絡先(電話番号)が提供されます。病状に不安や変化があるときは、いつでも電話で医師や看護師に相談出来ますし、その結果臨時の往診が必要とあらば、夜間や土日を問わず緊急往診がなされます。高齢者の場合、入院すると途端に足腰が弱って歩けなくなったり、認知症状が悪化してせん妄状態(精神が混乱して幻覚や異常な行動をしたりすること)が生じる場合が少なくありません。医療費の問題だけではなく、なるべく住み慣れた自宅で医療を受けられることは、そういう二次的かつ重大な問題を招くリスクを抑えることにもつながるのです。

在宅医療のもうひとつの大事な要素として、「看取り」があります。医療の高度化により経管栄養や人工呼吸などの延命措置が可能となった反面、自分の身体にはそういう不自然なカタチを望まないという選択もあり得ます。また終末期には「自宅で最期まで家族と過ごしたい、病院では死にたくない」と希望される方も少なくありません。在宅医療はご自宅での看取りを支えます。老衰や病気の進行などで食事や水分が取れなくなったとき、これまでの病院医療では点滴などで少しでも先延ばししようとしましたが、それは決して根本治療ではないため、その場しのぎに過ぎません。その不自然な抵抗はむくみや呼吸苦など本人にとっては苦痛な症状を引き起こし、その対処のため、さらに苦痛を伴う治療が加わっていくという悪循環に陥ります。老いや死を受け入れ、あるがままに見守っていくと、とても穏やかで静かな時間の後に、まるで潮が引いていくようにゆっくりと自然な最期が訪れます。最期の時間をどう過ごすかは、看取る側、つまり残されて生きていく家族にとっても、とても重要なことです。在宅医療はその過程をご家族と共に支えていくのです。もちろんそこにはいろんな不安や困難が生じることもありますし、なにより生活の場であるご自宅での介護や看取りは、医療の専門家である在宅医だけでまかないきれるものではありません。地域の訪問看護や介護サービスの支えを受けることで、ご家族の負担を減らし、大事な時間を有意義に過ごすことが出来るようになります。

在宅医療を受けたいときは、まずは担当のケアマネージャさん、もしくは地域包括支援センターなどに相談してみてください。あるいは現在入院や通院されている病院やクリニックの先生も相談に乗って下さいますので、どうぞ遠慮せずにお話してみると良いと思います。